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2010(Wed)

「愛についてのデッサン―佐古啓介の旅」 野呂邦暢著

読感/国内小説



「愛についてのデッサン―佐古啓介の旅」 野呂邦暢著/

古本屋の若き主人、佐古啓介が、謎めいた恋や絡みあう人間模様、古本に秘められたそれぞれの「事情」を解き明かしていく。本に重なり合う若さの痛み、ひとりの青年が成熟へと至る道筋を鮮やかに描ききった、異色の青春小説。
野呂邦暢は、1980年5月、42歳で急逝。小説の名手の早すぎる死であった。
「ひとりの同業者、小説を書く人間としてではなく、現実に目も歯も衰えるまで長生きしてしまった三十年前のひとりの若者として、この作家の小説をいまも読み、また彼の死をどう惜しんでも惜しみきれないからである」(佐藤正午「解説」)

↑本の内容紹介から。

「桜庭一樹の読書日記」に紹介されていて、ずっと読んでみたいなと思っていた本です。
(長い間品切れだったのですが、最近再販したようです。私は古本で手に入れましたが)
古書店を営む青年・佐古啓介が主人公の短編連作です。
「燃える薔薇」「愛についてのデッサン」「若い砂漠」「ある風土記」「本盗人」「鶴」の六編収録。
今から三十年前に書かれた小説なのだそうですが、古臭さをまったく感じませんでした。(最新機器などが出てこないこともありますが)
本にまつわる謎があって、ミステリ的なところもあるけれど、謎に対し明確な答えを出さない話の余韻が良いです。
人間的感情は所詮、誰にもわからないものなんだろうなー。
ちなみに「愛についてのデッサン」は作品の中に出てくる詩集のタイトルで、芸術とは関係ないです。
「若い砂漠」「本盗人」「鶴」が特に印象的でした。

父親が故郷・長崎に対し話題にするのも嫌がっていた理由、その真相を探す第六話で、父親の知り合いだった老人が語った↓の言葉が特に心に残りました。

不幸なことにきみたち若い世代の人たちは、全体主義の怖さを知らない。活字の中でしか知らない。平和のありがたさよりも平和の退屈さしか知らない。
(「愛についてのデッサン―佐古啓介の旅」 野呂邦暢著 P243より)


愛についてのデッサン―佐古啓介の旅 (大人の本棚)愛についてのデッサン―佐古啓介の旅 (大人の本棚)
(2006/06)
野呂 邦暢

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