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2011(Tue)

「水の柩」道尾秀介著

読感/国内小説

「水の柩」道尾秀介著/

私たちがあの場所に沈めたものは、いったい何だったのだろう。
五十数年前、湖の底に消えた村。少年が知らない、少女の決意と家族の秘密。
誰もが生きていくため、必死に「嘘」をついている。

いま最もまぶしい作家が描く、成長と再生の物語。

老舗旅館の長男、中学校二年生の逸夫は、自分が“普通”で退屈なことを嘆いていた。同級生の敦子は両親が離婚、級友からいじめを受け、誰より“普通”を欲していた。文化祭をきっかけに、二人は言葉を交わすようになる。「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」敦子の頼みが、逸夫の世界を急に色付け始める。だが、少女には秘めた決意があった。逸夫の家族が抱える、湖に沈んだ秘密とは。大切な人たちの中で、少年には何ができるのか。絶望と希望を照らす作家・道尾秀介がおくる、心に染みる人間ドラマ!

↑本の内容紹介から。

道尾さんの新刊です。
ミステリ(事件が起こって謎を解く)とは、ちょっと違う。どちらかと言えば「光媒の花」や「月と蟹」といった文学系統だと思いますが、ミステリ的な手法でお話が紡がれているので、それ以前の道尾さんの作品で騙されてきた人たちにも楽しめるのではないかと思います。
お話は普通を嘆く少年・逸夫と普通を欲する少女・敦子、そして嘘を塗りかためて、生きてきた祖母・いくを主軸に。
各章の始めは物語の現在、それから九か月前の過去を回想という形で進みます。
最初、この時系列が呑み込めないと混乱しそうですが、直ぐに慣れるかと。
というわけで「現在」では「過去(九か月前)」に何があったのか、おぼろげながらも暗示されているので、読んでいて知るのが怖いような、だけど何が起こったのかハッキリと知りたいような焦燥感を覚えつつ、ページを捲ってました。
失って初めて気づく普通で退屈な日々の尊さがじわりと沁みてくると同時に、やり直そうと思えば先は在るのだと、教えてくれるお話でした。
繊細で丁寧な心理描写(個人的には、敦子が「暗闇」を恐れた気持ちがわかって、ヒリヒリした)と、絵になるなというような情景描写(このお話の中に描かれていた天泣が本当に綺麗で、一度見てみたいな)。
それが美しい文章で描かれていて、お話もそうですが澄んでいて、心の鬱屈が洗い流されるかのよう。

「まず思い込むことが大事なんだよ、何をするにしても。世の中のほとんどのことには、どうせ正解なんてないんだから。面白いとか正しいとか、何でも思い込んだもん勝ちだよ」P58

――とにかくぜんぶ忘れて、今日が一日目って気持ちでやり直すの。P269


生きるということは、前へ進むということなら――、この本はそっと背中を押してくれるようなメッセージが詰まってて、読後は自分なりにがんばってみようかと思えるような。
そんな気持ちになりました。

本の内容もそうですが、装丁もとても綺麗。
中身も「水の柩」というイメージに合わせて作られていて、素敵でした。

水の柩水の柩
(2011/10/27)
道尾 秀介

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