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2012(Mon)

「ラバー・ソウル」井上夢人著

読感/国内小説

「ラバー・ソウル」井上夢人著/

洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけが、社会との繋がりだった鈴木誠。女性など無縁だった男が、美しいモデルに心を奪われた。偶然の積み重なりは、鈴木の車の助手席に、美縞絵里を座らせる。

↑本の内容紹介から。

「オルファクトグラム」や「魔法使いの弟子」などと、奇抜な発想が面白い、井上夢人さんの新作です。
病で容貌が醜く、世間と関わり合いを避けて暮らしていた主人公が、モデルの絵里に心を奪われ、彼女に近づく男を排除していく――という、ストーカー小説。
だけど、それだけでは終わらないよ!
お話は、主人公視点の手記と複数人の証言から綴られています。
病気で醜くなった容貌に、誰もが目を逸らし、実の親でさえ彼を見捨てた。家は裕福なので、暮らしには困ることなく、ビートルズの評論を書くことだけが、世間との唯一の繋がりだった主人公の鈴木誠。
自分の容貌の醜さを自覚していて(マスクに帽子にサングラスと、極力顔を隠すようにしている)外に、人に顔を見られるのも嫌がっていた彼ですが、自らの存在を受け入れてくれた雑誌の依頼で、所有している高級車を撮影に貸すことに。
その撮影現場で事故が起こり、彼はモデルの絵里を送って行くことになり、彼女を車の助手席に乗せた――。
その、「乗せた」というか、「乗った」ことにより、彼は絵里に頼られたと感じる。
今まで誰もが彼を顧みることがなかったなかで、彼は頼られたことに感動し、彼女に初めての恋をするわけですが……。
彼女の前に姿を晒すことが出来ない彼は、彼女の近くに部屋を借り、車で追跡し、果ては盗撮・盗聴。彼女に近づく男がいれば、その男を排除すべく――と。
もう、この辺りの彼の手記は、妄想過多というか、思い込みが激しいというか、どうやったらそんな風に、自分の都合のいいように解釈できるわけ?と言いたくなるくらいで、正直怖いです。
ストーカー心理が本当によく書かれているというか、ちょっと理解不能の考え方にぞわぞわと、背筋を震わせながら読み進めて行くと、終盤、真相が明かされたときの衝撃は――。
読了後、全てを知ってからもう一度、読みなおせば、色合いが変わってくるお話だと思いました。
ネタバレしてます。出来れば、読後に手記は実は、ある人を守るためにわざと自分を怪しく書いたものだった!というね。
うわー、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。と謝りたくなる。
だって、自分の化け物のような容貌を自覚し、沢山傷ついていながら、それでも初めて愛した人を守るために自分をわざと貶めて書くだなんて……。
どんな想いで、自分を気持ち悪いストーカーとして書いたのかと思うと、ね。
初読の際は、ただただ気持ち悪かったお話も、切なく感じてくるわけですよ。
個人的に、それだけのことをしてあげる相手だったのかと思うんですけど。そこにしか「価値」を見いだせなかった彼は世間から冷たく拒絶されてきたのだろうと思えば……また(涙)

二度、三度と楽しめる作品だと思いますので、良かったら是非!

ラバー・ソウルラバー・ソウル
(2012/06/02)
井上 夢人

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