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2012(Sat)

「湿地」アーナルデュル・インドリダソン著

読感/翻訳小説

「湿地」アーナルデュル・インドリダソン著/

雨交じりの風が吹く、十月のレイキャヴィク。北の湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。被害者によって招き入れられた何者かが、突発的に殺害し、そのまま逃走したものと思われた。ずさんで不器用、典型的なアイスランドの殺人。だが、現場に残された三つの単語からなるメッセージが事件の様相を変えた。計画的な殺人なのか?しだいに明らかになる被害者の老人の隠された過去。レイキャヴィク警察犯罪捜査官エーレンデュルがたどり着いた衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相とは。世界40ヵ国で紹介され、シリーズ全体で700万部突破。ガラスの鍵賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー賞を受賞した、いま世界のミステリ読者が最も注目する北欧の巨人、ついに日本上陸。

↑本の内容紹介から。

アイスランドを舞台にした警察小説です。
本邦初訳なんですが、実はシリーズ三作目(翻訳本は売れないと、シリーズの続きの版権が買えないという事情などもあるので、評価が高いこの本が最初に日本に紹介されることになったみたい)
というわけで、シリーズ物で既に読者が知っている捜査の主要メンバーに対する情報が若干、少ないのが戸惑いました。
その点と、アイスランドの名前に馴染みがないのに、引っかかりを覚えた以外は問題なく読み進めることが出来ました。
(エーレンデュルが男性なのでエーリンボルクも男性だろうと思っていたら、女性だった!とか(笑))
アイスランドは姓というものが基本的にはなく、父親の名前に男性だったら「ソン」、女性だったら「ドッティル」がつくので、姓まで表記してあったら、わかりやすかったと思うんですけど。
(↑というわけで、作者のお父さんの名前はインドリダ(ディ)とわかる。何でもアイスランドでは著名な作家だとか)
そうしたら、関係のない父親の名前まで考えなくちゃならないので、その辺はしょうがないですね。

話を元に戻して。
陰鬱な雨が降り続く、レイキャヴィクのアパートで、老人が死体で発見されます。
計画的ではない、衝動殺人。典型的なアイスランドの殺人と追われた現場には、一枚のメモが残されていた。
主人公の捜査官はエーレンデュルは老人の過去に事件が関係しているのではないかと、その筋で捜査をします。
そうして被害者の過去が見えて来ると、被害者と加害者、二つの間で読んでるこちらの感情が捩じれてきました。
老人は過去に女性に対し、暴行事件を犯していた……。しかも、これがまた酷い形で女性を追い詰めてる……。正直、この被害者はろくでなしだと思わずにはいられない
ミステリとしては大仰な仕掛けもミスリードも特になく、割と展開が読めるといいますか、犯人像は見えてくるんですが。
多分、これはあえて見せているんじゃないかな、と。
犯人との距離を近づけることによって、感情を揺さぶって来るというか(私の勝手な推測だけど)
過去の事件の酷さ、それが後々に及ぼした影響。
幼くして病死した少女が、出て来るんですが。
エーレンデュルは過去に離婚して、幼い頃に別れた子供たちは大きくなっているけれど、娘は麻薬漬けという……。
ジャンキーとかした娘が転がり込んできて、さらに妊娠している様子。一応、娘は麻薬を止めようとする意志を見せているけれど、なかなか止められない。
そのことに対して、死んだ少女を引き合いに出し怒りを爆発させるエーレンデュルが、読んでるこちらと同じ立ち位置で何と言うか、近い。
(うん、親がどうであれ、生まれて来る子は大事にしてあげてよ)
犯人に近づけば近づくほど、募る切なさは辛く。
でも、辛いからこそ、作者が作品を通して訴える声は、響く。
暴力を描くことで、痛みを訴える。そうした社会問題提示は、書く側の作者の精神も削る。それでも知って欲しいと願うからこそ書く覚悟というのが、訳者あとがきのインタビューで、作家本人の声として聞けたことも良かったです。
お話は本筋とエーレンデュルのサイドストーリと、シンプル故に読みやすいと思います。
翻訳ものが苦手な人にも、いいんじゃないかな?
他のシリーズも、読みたいです。

湿地湿地
(2012/06/09)
アーナルデュル・インドリダソン

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