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2013(Mon)

「緑衣の女」アーナルデュル・インドリダソン著

読感/翻訳小説

「緑衣の女」アーナルデュル・インドリダソン著/

住宅建設地で発見された、人間の肋骨の一部。事件にしろ、事故にしろ、どう見ても最近埋められたものではない。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近にはイギリス軍やアメリカ軍のバラックもあったらしい。住民の証言の端々に現れる緑の服の女。数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が、捜査官エーレンデュルの手で明らかになる。CWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞。究極の北欧ミステリ。

↑本の内容紹介から。

「湿地」に続く、アイスランドを舞台にした捜査官エーレンデュルシリーズの第二弾です。
シリーズものですが、読んだ限りは「湿地」を読んでいなくても大丈夫です。
(勿論、読んでいたら作者があえてここまで辛い話を書こうとする、その姿勢の揺らぎなさに感じるものがあると思いますが。その辺りも「訳者あとがき」で書かれているので)
建設中の住宅地で人骨が発見されます。かなり昔のものらしいその骨から、過去行方不明になった者はいないかと、エーレンデュルとその部下エリンボルクとシグデュル=オーリの三人で捜査するパートと。
父親の家庭内暴力にさらされる家族の話、この二つを軸に進行します。
とにかく、この家庭の話がなかなか辛い。現代でも問題視されるドメスティック・バイオレンス。暴力だけではなく、言葉で人間性を否定して、母親は自分に自信すらなくしていく。
それでも子供たちのために耐える日々(一度、逃げ出したものの捕まり、子供を殺すという脅し文句で縛られては、もう逃げるに逃げ出せない)
そんな父親の暴力を克明に描くことで、改めて暴力の醜悪さに戦慄します。
ここまで人は酷いことが言えるのか、残酷なことができるのか。そう疑問に思うけれど、平穏な世界に暮らしている私が知らないだけで、ニュースのその向こうには残酷な世界があるのだろう。
それをこの作家は小説を通して訴えて、皆に考えて欲しいと願っている。
その力が、読ませるといいますか。
捜査で次第に明らかになる、発見された場所に住んでいた住人たちのこと、その時代。
(どうやら人骨が埋められたのは戦時中らしい)
現代ほどに融通が利かないことなどもあり、そこで生じた悲劇も辛い。
「湿地」ではあえて犯人を見せていて、今作も犯人らしき人は想像つくのですが、今回はひねりを加えてきたといいますか。ミステリ面でも前作を上回っている。
プライベート部分では、エーレンデュルの家族や過去が描かれ、また彼が行方不明者捜しに執着する理由が垣間見え、切なくなりました。
彼が家族と関係をつくれない、孤独は(「罪悪感」を抱えているからじゃないかなー
また、あとがきで語られたアイスランド文化など、読み応えがありました! 
シリーズの続きは当然、出ますよね? 待ってます!

緑衣の女緑衣の女
(2013/07/11)
アーナルデュル・インドリダソン

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湿地 (Reykjavik Thriller)湿地 (Reykjavik Thriller)
(2012/06/09)
アーナルデュル・インドリダソン

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